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2005年11月22日 (火)

事故と鰻と缶ビール part 1

それは、数年前の秋の終わりのことでした。
当時僕は、国道沿いにある某ファミレスの副店長でした。
深夜のファミレスには、いろんな人がやって来ます。
僕が裏で仕事をしていると、アルバイトの阿部君が知らせに来ました
「マネージャー、変な人が来てるんですけど、ちょっとお願いします」古株アルバイトの阿部君、大学3年生。
少々あわてています。
酔っぱらいでも来たかと思って出て行くと、真っ青な顔をした男が、立っていました。
「電話をしてもらえませんか?」
彼は、手を小刻みに震わせながら言いました。
電話を貸してもらえないかと言ったのかと、一瞬思ったけれど、店には公衆電話もあります。
「どこに電話していいか、分からないんです」彼は続けます。
「どういうことですか」
彼の言っていることを僕は、理解できませんでした。
「車で人を轢いちゃったんです、どうしたらいいですか」
「え?・・・」
状況がすぐにはのみこめませんでした。
「それで、ケガの程度はどうなんですか?」
「怖くて見ていないんです、どうしたらいいでしょう」
「そんな、無責任な」僕はジャケットに腕を通すと外を見ました。

店の前は、幹線道路です。
深夜というか、すでに早朝と言った方がよい、午前4時です。
一日で、一番交通量が少なくなる時間ですが、車は飛ばしています。
そのまま。道路に倒れたままだと、非常に危険です。
アルバイトの阿部君に、119番に電話するように言うと、僕は外に出ました。
しかし、ドライバーの男がついてきません。
「ちょっと、あなた一緒に来てください」
「僕も、行かなきゃいけませんか?」
「あたりまえでしょう、何を言ってるんですか」

店の前の片道2車線の国道に出ると、4トントラックが止まっています。
トラックの5メートルほど前、外側車線に体を横向きにして、倒れている人が見えました。
近寄ると、右手を頭上に伸ばした格好で倒れており、頭部から出血しています。
血は、30センチほどの川になって側溝に向かって今も伸びています。
「ケガはひどいですか?」
ドライバーが覗き込みます。
僕はそれには答えず、倒れている人の左手首に触れてみました。
脈拍が、僕には感じられませんでした。
アルバイトの阿部君が、店から出てきました。
「救急と警察に電話しました」
阿部君は、あまりこちらに近寄りたくないようでした。
「阿部君、車を誘導してくれないかな、このままじゃ二重事故に、なりかねないよ」
現場は、信号の100メートル程先です。
赤信号に引っかかりそうになった車が、猛スピードで突っ込んでくるかもしれません。

程なく、救急車とパトカーが到着しました。
救急隊員は、てきぱきと、必要な処置を施し、怪我人を救急車に乗せようとしていました。
「あなたが通報者ですか、今から搬送します。行き先は、○○市中央病院」
その時初めて、被害者の顔が見えました。

ああ、あの人を僕は知っている。

救急車がサイレンを深夜の街に響かせながら走り去り、警察官がこちらの方にやってきました。
「運転していたのは、誰ですか?」
「私です」今にも倒れそうなようすの、ドライバーが名乗り出ました。
警察官は、僕の方に向き直りました。
「あなたは?」
「前のレストランの責任者です」
「通報してくれた方ですか?」
「実際に電話したのは、うちの従業員です。電話は、店の電話を使いました」
警察官は、僕に名前と住所、連絡先を質問し、手帳に書き留めると、もう仕事の方に戻って良いと言いました。

「お巡りさん、僕あの人の名前を知っています」
「何ですって」警察官は、手帳を見直した。
「どういうことでしょうか」

ああ、やっぱり言わなければ良かった。

  以下 part 2 に続く


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